atelier shot 2005.11.20

  
 茅葺き民家のリフォーム工事が完了した。近くprojectでも発表更新予定。しかし180年経ている住宅のリフォームに関わらせていただいて、あらためて住宅とは「家族の記憶を記録し次世代に伝える装置」だと認識した。写真はいわゆる「柱のきず」。竣工して訪れた若夫妻の甥っ子姪っ子達が懐かしそうに見て語ってた。彼らが引いた線なのだろう、残っている事に驚きながらも傷を付けたときの様子を話していたあの楽しげな姿は忘れられない。かつていわゆる「本家」「実家」というところは、このように本来は自分の家では無いけれども、心おきなく気兼ねなく寄れるところだった。そんな光景を見ていて、今の日本が軽んじてきた親戚や身内の絆といったものが間違いなくここにはあった。こういった傷が家族の記憶なのだと確信を感じた出来事だった。茶の間などには親父さんすら理由がわからない金具が付いていたり、戸棚の中の壁も奉書の様な物が貼ってあったり、新築当時から180年の家族の歴史がありとあらゆるとこらに散りばめられている。溢れんばかりの家族の記録達だ。リフォームの出来栄えはというと、来る人来る人が古い建物の持つ魅力を再認識し、「空間に心地よさを覚える」といった誉め言葉をいただいているので、大成功だと自負している。とくにそこに生まれ育った親父さんが一番喜んでいたのが嬉しかった。180年経つ建築が本来持つ魅力と今のライフスタイルの融合がとてもうまくいったと思っている。
 ところで私の実家もいよいよリフォームすることになった。180年の古民家とは比べものにならないが、築40年経つ亀田郷の典型的な中廊下式「田の字」の田舎造り。ここにも私や弟が書いたウォールアート(ま〜いたずら書きです)が今でも残っている。私が書いたウルトラマンの怪獣、弟が書いたアポロのロケット、妹が貼ったシール・・・。これを残してリフォームするわけだが、さて私らがいなくなった数十年後子孫はこれらを見て何を感じるのだろうか。(いと)
 
 
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