古民家再生

最近古い建物がどんどん壊されていく。建築に携わっているので解体現場にはよく立ち会うのだが、やはり解体される所を見ているのは胸が痛むものだ。しかし先日立ち会った現場は違った。いつもは街を踏みつぶす怪獣のように見える解体重機が、こころなしか優しく見えた。実はこの現場、解体する建物の材料を再利用しようという事での解体現場であった。それゆえに重機のオペレーターさんも気を使いながら壊していたからなのだろうか。この仕事は理解あるオーナーさんが、かつて自分が住んでいた古い家をなんとか再利用したいという思いから始まった。新しく建てる場所が古い建物の場所と違うため、一部の移築と材料の再利用ということになるのだが、古い建物を再利用したいという思いには自分自身も共感できるものがあり、とてもやりがいのある仕事だと思っている。

古い民家が、ただ今の時代のライフスタイルに合わないからと言って建て替えられる事には少々疑問を持ち続けていた。もちろん建物にも寿命はある。その寿命をまっとうしたときや、性能や構造が建て替えることによってはるかに良くなるのならやむを得ないとは思う。しかし、決して性能・構造・意匠が以前より増して良くなるとはいえない建て替えも巷には多い。一見綺麗に見えるそんな建物も建て替えて質が落ちては何も意味がないのではないか。

先日、築二百年程経った茅葺きの民家に今も住み続けているご婦人とお話しをする機会に恵まれた。「夏は涼しいし、案外冬も寒くは無いのよ。それにお友達が来ると皆、落ちつくわねって言ってくれるの」とおっしゃってた事が印象的だった。維持管理することは決して楽なことでは無いと思う。しかしそこに住み続けるということはその魅力を感じていると共に、そこに流れた時の思いや歴史を大切にしているからこそなのだと思う。住んでいる人の思いからもその魅力が伝わってくる。色々なお話しを伺っていると古いものには先人の知恵が詰まっているものだなあと感じるとともに「落ちつく」というキーワードが古いものにはいつも付いている事も感じたものだ。

古いものを活かしたといえば、新潟市の下町(しもまち)で数人の仲間達と、古い町屋を活かした「新潟絵屋」という画廊の運営に関わっている。改装を担当させてもらったのだが、来客者から「落ちつくはね」という意見を聞くたびに、古いものの持つ包容力、今風に言うのなら癒しの力を感じずにはいられない。この様に古い建物を再活用している例は最近少しずつだが増えてきている。

ライフスタイルがどんどん変化してきて多様化していることは事実だろう。それならば現在のライフスタイルに合うよう、自分流に工夫し改装して住まう様にすればいい。近年の日本ではライフスタイルに合わないからといって、バッサリ切り捨ててきたものがあまりにも多すぎたのではないだろうか。その点ヨーロッパの建物は組石造建築が多く簡単に建て替えが出来ないため、その辺うまく使って住んでいるいる。欧米のライフスタイルにあこがれるなら、その様なところも見習いたいものだ。

建築家に求める想像力は、何もないところからオリジナルな物を創りあげる事だけではなく、今ある物、ありのままの姿から工夫や発想する事が、より大切なことの様に思える。そのためには古い物の中に隠されている知恵や工夫を読みとることや、物を多角的に見る事はいつも意識していなければならない。最近、異ジャンルのクリエーター・アーティストとのコラボレーション(共同創作)をしたり、「しょっぺ店」(しょっぺといっても味の「しょっぱい」「塩辛い」という意味ではない)を探索したりしている。コラボレーションでは相手を認めながら自分らしさを発揮し個性の融合を試み、「しょっぺ店」からは歴史あるもののパワーやエネルギー、人に語り継がれる個性といったものを肌で感じてきた。古い物の再生再活用の発想にこれらのことが活力になっていることは間違いない。これからも古い建物の空間の良さを理解し活かし、新しい空間へと生まれ変わらせる仕事に携わっていきたいと思っている。

(新潟よみうり リレーエッセイ「にいがたのひと」より)

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